現倭建命記

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 鳥上(とりがみ)八津海(はつみ)は神を信じている。悪いことがあれば近くの神社に駆け込んで小さな罪状を並べたてて詫び、いいことがあればやはり神社に駆け込んで神に感謝した。なにもハツミの両親が特別に信心深いということではない。きゃつらは日本人らしく年明けに神に詣で、人が死ねば仏式で葬儀を行い、クリスマスに無表情でチキンを食べる。ハツミも食べる。  染み付いた現代人の習わしはそれとして、ハツミは個人的に神を妄信している。神はいるのだ。勢い余って高校では『地元の神社研究同好会』に入部した。自慢ではないが将来の部長との呼び声が高い有望株である。自慢だ。  地元の神社研究同好会の仕事は放課後に神社をあちこち探して回って写真を撮ったり、神主がいれば話を聞いて部誌にする程度である。ハツミは部長相手に声高に吠えたてた。 「もっと土地の神についてルーツを調べたり掘り下げたりはせんのですかあ!?」  部長は小さな三白眼を眼鏡の下に閉じ込めた見るからに陰気で愛想がなく、おまけにふてぶてしいときている。そばかすだらけの頬に手をあてて、頬杖を作った。 「そんなもんわかりゃしないよ」 「部長! それじゃ部長はなんのために地元の神社研究会に属したんですか?」
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