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「なんかあった?」
私がなつの顔を覗き込んで言うと、なつはちょっと驚いた顔をした。
「え、なんで?なんにもないよー」
「嘘。顔に出てるよ」
即答で切り返すと、なつはちょっとびっくりした顔をしてから笑った。
「なんもないって〜!」
「ほんとに?なんか無理してない?」
私は引き下がらずに質問を続ける。
なつは少しの間何か考えてから、ため息をこぼした。
「適わないなぁ、青って他人のこと見てないようでしっかり見てるよねぇ」
困ったように笑いながら、なつはぽつぽつと話し始めた。
「なんか最近、全然吹けないんだよね……音が出ないの。本当は自分が原因だってわかってるんだけど、楽器のせいにしちゃうし。どうして引退した先輩みたいに上手く吹けないのかなぁ……」
なつの声は、だんだん震えて小さくなっていった。私より少し前を歩いているなつの手は、ぎゅっと握られ震えていた。
「部活、行きたくないなって。自分の楽器を見るのも嫌なの」
なつは、声の震えを悟られないためか、早口にそう言った。
私は、いつも楽しそうに楽器を吹くなつが部活に行きたくない、と言ったことに驚いた。
それに、こんな弱気ななつを見るのは初めてだった。
今にも消えてしまいそうな背中にそんなに重い楽器を背負って、壊れてしまわないかと不安になった。
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