月ウサギのゆっくり

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月ウサギの〝ゆっくり〟は いっつもゆっくり動いてます。 仲間たちがお餅をついている間もほとんどは、まったり見ているだけです。 以前はたまに 「君も餅つきをしなよ」 と仲間から〝きね〟を渡されましたが 「じゃあー、つくよー…いーち……にぃーい……さーん……」 という具合だったので、誰もタイミングが合わせられず、今では声をかけられなくなりました。 だからいっつも 「みんな、あんなに早くお餅をつけるなんてすごいなぁ…」 と感心していました。 ある日の昼下がり、〝ゆっくり〟が月の公園を散歩していると池のほとりにオロオロしている一匹の亀がいました。 「亀さん、そんなに慌てて、どうしたのー?」 〝ゆっくり〟が声をかけると亀は目に涙を浮かべて答えました。 「うちの子が迷子になって、見つからないんです。ウサギさん、一緒に探してもらえませんか?」 「それは大変だー! わかった。一緒に探そうー」 「ありがとう。じゃあ、わたしはこの池のまわりを時計回りに探すから、ウサギさんは逆方向から回ってください」 「わかったよー」 そう言って、2匹はそれぞれ池のまわりを探し始めました。 じっくりと探しながら〝ゆっくり〟は池の半分ほど進みました。そこで逆方向から来た亀とばったり。 「こっち側では見つからなかったよー。亀さん、そっちはどうだった?」 「こっちも見つけられませんでした。それよりウサギさん、とっても遅いですね。まじめに探してくれましたか?」 亀はちょっぴり怒っていました。 「ごめんねー。ぼく、動くのがとっても遅くてー」 〝ゆっくり〟はウサギなのに早く動けないことを申し訳なく思い、がっくりしました。 「あ、そうだ。亀さん、ぼくの背中につかまってよ」 〝ゆっくり〟は良い方法を思いつき、亀に言います。 亀はなんだか分かりませんでしたが、言う通りに〝ゆっくり〟の背中に乗ってつかまりました。 「しっかりとつかまっててねー」 〝ゆっくり〟は両足に ゆっくりと力を込めます。 そしてピョーンと思いっきり飛び跳ねました。 「わわわ」 亀は落ちないように しっかり〝ゆっくり〟の背中の毛につかまります。 2匹はぐんぐんと空へ昇っていきます。 あっという間に公園中を見渡せるほどの高さまでに届きました。 「どうー? 亀さん、ここからなら一歩も動かずにじっくり探せるよー」 「本当だ!」 亀は〝ゆっくり〟の背中から公園中を見渡します。 2匹の体は ゆっくりゆっくりと落ちていきます。 「あ! いました!」 「どこー?」 「あそこ! 池の真ん中」 〝ゆっくり〟が目を向けると池の真ん中の岩場にお母さんに そっくりな子亀がいるのが見えました。 「本当だー。じゃあ、あそこにおりるねー」 〝ゆっくり〟は体の向きを変えて、そちらの方へおりていきます。 とん。 突然空からおりてきた〝ゆっくり〟に子亀はびっくり。 すっぽり甲羅の中に身を隠します。 でも、背中にお母さんを見つけると、安心して泣き始めました。 お母さん亀も子亀を抱きしめて泣きました。 「ウサギさん、ありがとう!」 「見つかって良かったねー」 〝ゆっくり〟は今までまわりに迷惑をかけるばっかりで、誰かの役に立ってお礼を言われたのが初めてだったので、嬉しくて涙が出てきました。 すっきり泣いて うっとり幸せな午後でした。
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