フェードアウトは許さない

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 刹那、彼女のあごに指をかけると、少し開かれた瑞々(みずみず)しい唇を、角度をつけて深くふさぐ。 「……ンっ!」  そのまま口中を(むさぼ)るように彼女の舌に自分のそれを絡めると、彼女がイヤイヤをするように首を振って、僕の口付けから(のが)れようとする。  あごに絡めた指でそれを封じると、同時に腰にまわした腕に力を込めて彼女の肢体(したい)をさらに自分に密着させる。  と、次の瞬間、舌先に鋭い痛みが走った。  驚いて思わず唇を放したのと同時に、彼女の右手が勢いよく振り上げられる。それを目端(めはし)(とら)えた瞬間、振り下ろされたその手を捕まえて、僕は彼女の反撃を封じた。 「……バカ理人! いきなり何すんのよっ!」  僕の頬を張ることに失敗した彼女が、せめてもの抵抗か、声に怒気をにじませる。それでも熱を帯びて(うる)んだ瞳は、怖いというよりむしろ扇情的(せんじょうてき)で。  いくらなんでもその可愛さは反則過ぎるだろ?  そんな彼女の視線を真っ向から受けて、僕は静かに問いかけた。 「葵咲ちゃんこそ、どうして僕を()けるの?」  声こそ荒げなかったけれど、底知れぬ僕の怒りを感じたんだろう。  葵咲ちゃんが、息を呑むのが分かった。
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