序章

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  列車に揺られていた。   私の目の前の席は空いていて、なんだかさみしく不思議な気分になった。   硬いばかりで退屈な座席。暗い車内に赤色の布地が映えて見える。窓の外を見てもつまらない景色ばかりだ。   何度も乗って何度も見てきた景色だ。   しかしそれは突然起きた。ほんの少し。ほんの数分うたた寝をして目覚めた時だった。   この日を境に始まった私の非日常。    それは美しくも恐ろしいもので、色のない世界に色を与えたわけでもなく、ただそこにあった。   座席の下にまるで私の正面に足をそろえて座っているかのように。   くるぶしより上の無い青白い足がこちらに向かって鎮座していた。
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