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美術館で絵画を見た帰りだった。私はその日黒いハットを深くかぶり、足元ばかりを見て歩いていた。
すれ違う人々の足を見ては、「いや違うこれは生きている人間の足だ」と思った。あの日見たものは、爪が青白く切り口がなんともグロテスクだった。
誰が一体何のために私の目の前にそんなものを置いたのかは分からない。ただ私はそれがひたすらに私を見つめているように感じて気味が悪かった。
私は列車に乗り込んだ。目の前はまた空席だった。田舎の道を切り進み何もない景色が続く。おまけに曇り空ときた。陰鬱な車内。
目をつむり大きく息を吸い込むと、雨の香りに混ざって腐敗するようなにおいが鼻を突いた。
恐る恐る瞼を上げると座席の上には手があった。手首から切り取られていた。指先に紅をのせたような赤色のマニキュア。
その指が重なりこちらを向いていた。
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