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私の機嫌が悪いと必ず貴方が買って来てくれた。
甘い甘いチョコレート。
私がチョコレートに目がないことを知っていて。
そういう優しさが好きだ。
ネクタイを解いたワイシャツ姿の貴方に抱きしめられて。
キスされる瞬間、天にも昇る気持ちになれるんだよ。
ビューンって空だって飛べる気がするよ。
貴方の薄い唇に自分のを重ねる。
するとなぜかチョコレートと煙草の薫りがする。
「あっ、先にチョコレートに手を出したな」
そう思いながらも、貴方との甘い時間に堕ちていく。
チョコレート風味のキスをあと何回重ねられるだろう?
幸せ過ぎて怖いのだ。
だがチョコレートより、私たちの人生は形を自由に変えるだろう。
甘いときもあれば苦いときもあるのだ。
******
私の住処へ貴方が来てくれることがなくなった。
ワンルームのアパートの玄関には、いつもパンプスが一足。
よれよれのカーディガンを着てテレビの前にいる女は私。
板チョコを食べながら、見もしないワイドショーなんかを流している。
こうして、あの素敵なキスを思い出していると淋しさも誤魔化せる。
不意に涙が止まらなくなることもある。
マッチを擦って夢を見るように、安い板チョコで戻らない幸せを繰り返し
反芻する。
「神様お願いします、大好きなチョコレートが食べられなくなってもいい。だからあの人に会わせて下さい」
たった一つ。そして願いの全てだ。
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