秘密

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秘密

俺には、妻には言えない秘密がある。 それは、昔自分が犯したあの事件のことでは決してない。 確かに俺はあの時、過ちを犯した。でも、そのことを妻は知っている。 だから決して俺が隠したいのは、そのことではない。 ましてや妻には内緒で新しい女ができたわけでもない。 俺が隠したいのは、昔殺人罪で刑務所にいたことでも、浮気をしているなどではない。 では、何か。 俺は今、お金に困っているのだ。 お金に困っているのは、詐欺に騙されたとか、借金を抱えているとか、これまた女に貢いでいるとか、会社をクビになったとか、そういうわけでは、決してない。 では、なぜ、お金に困っているのか。 おばあちゃんの手術代だ。 おばあちゃんは、今癌を患っている。 その癌は、死に至る前に、発見されたが、危険な状態であることに間違いはなかった。一刻も早く手術をしなければ、は手遅れになる。と主治医である羽馬先生は、いった。 今すぐにでも手術をしてほしい。今はまだ死なれては困る。 だが、手術費は高額だ。 自分には到底払える金額ではない。 どうすればいいのか、わからなかった。 妻に言えば、きっと妻は無理をしてでも力になってくれるだろう。 でも、これ以上、妻に心配をかけたくない。 昔のことを嗅ぎまわってるやつがいてそれさえも、心配だというのに。 そうやって悩んでいるあいだにも時間は刻々と迫ってくる。 俺はそんなことをいつものカフェで考えながら、コーヒーを飲んでいた。
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