84人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
プロローグ
昨日から降り続いていた雪は、激しい雨に変わり車の フロントガラスを真っ白に染めあげていった。
私はワイパーを回しフキンで擦りあげながら一瞬このまま帰ろうかなと脳裏に浮かんだが、やはり、この事実を彼に打ち明けたい、その欲求が頭の中を埋めつくしアクセルを強く踏み込んだ。
しばらく走らせ市内に入り彼のアパートに、たどり着くと時刻は夜の7時を回っていた、降りしきる雨を手で遮りながら玄関のドアに立ち、びしょ濡れの体を何度か払い 私は一呼吸すると呼び鈴を鳴らすが返事がない
もう一度鳴らすと「はーい」と声があがり 細身で童顔の百瀬禄郎が眠そうな目を擦りドアから顔をだした。
「やあ、君か、久しぶりじゃないか」
「お久しぶりです百瀬さん。すいません寝ていましたか」
「はは。面目ない…昨日は遅くまで調べものしててねぇ。おや…すごい雨だ…入りたまえ 風邪をひいたら大変だ」
百瀬は私を案内すると部屋に散乱した紙や本を端に避けると埃だらけの座布団を何度か叩き私の前に置くと洗面所にはいりバスタオルを差し出した。
「ありがとうございます」
私が礼を述べると百瀬は人懐こい顔を浮かべニコニコ笑ってみせる。
変わらない人だな…とクスッと笑うと、顔を引き締め私は、彼に本題を打ち明けることにした
「実は百瀬さん。今日尋ねたのは、とても不思議な経験をしたからなのです」
「ほう 不思議な体験かね」
子供のように自身の糸目を輝かせた百瀬は前のめりになり耳を傾けた
「ええ。実は友人と泊まりがけで山に行ったのですが」
「へぇー登山かい?」
「目的は少し違いますがね…。この町にある古暮山の山小屋に…季節外れの雪が舞って大変でしたが」
「古暮山…?。はは地理は、まったくダメでね。この町に、そんな山があったんだね」
「知らないのは仕方ありませんよ。地元の人間ですら、あの山をそう呼ぶ人は、もういませんからね…いま、皆あそこをマタギ山といってます」
「マタギ山だって!」
百瀬はその名前を聞くと目を丸くした
「ええ。あの山です…幽霊なんてものがいるのなら、どうしても会ってみたい、そんな欲求に取りつかれてしまいましてね…」
その言葉に百瀬は神妙な面持ちのまま押し黙り私は言葉を続けた
「そこで…一緒にいった友人が忽然と姿を消したのです」
「ええっ!」
「驚きますよね…僕も心臓が飛び出るかと思ったほどです。また、あの山小屋から人が消えてしまったのですから…」
最初のコメントを投稿しよう!