EP1-5

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EP1-5

ポト…ポト…と、木製の机に高橋美里の涙が落ちてゆっくり染みていった 「仕方…ないじゃない…彼のこと好きで好きで仕方なくて…気持ちが膨れ上がる度に…彼の気持ちを確かめていないとおかしくなりそうになってしまったの」 高橋美里は長袖を捲り手首を粗雑に引っ掻きはじめた。 その手首は何度も何度も掻いているのだろうみみずばれのような跡になっていた。 「オセロ症候群は、初期でこそ不安や嫉妬でイライラするくらいですが、そこを超えてくると罪悪感や現状への不満から自傷行為にステージが移っていきます。」 翔が呆然と手首を引っ掻く高橋美里を見ていた。 「嫌なの…もう、こんな自分も、こんな自分を取り繕って彼に嘘の笑顔を見せるのも、そんな最低な自分を彼の隣に置いておくのも…だから、彼との縁を切って欲しかった…普通の人間と幸せになって欲しかった…それの何がおかしいのよ…」 高橋美里は机に伏してくぐもった涙声を抑えていた 「泣かれても縁を私は切りませんよ~」 この期に及んであっけらかんと言う結に翔も少し苛立ちと焦りを見せた 「おい、結、なんでだよ、彼女こんなに苦しんでるのに…」 キッと腕の隙間から腫らした目で高橋美里が睨んできた 「だって根本的な解決にならないじゃない」 「もう…いいです、帰ります…」 素早く荷物をまとめようとした高橋美里に結が焦って声をかける 「え!?帰らないでくださいよ~」 これには高橋美里もまた心が激昂していった 「あんた!一体何がしたいのよ!」 何がしたい… 「そんなの決まってるじゃないですか、あなたと、恋愛依存の悪い部分だけチョキチョキっと切っちゃいたいですね!」 ユーモアにカニのような動きを見せる結。 「え…」 高橋美里も結の言葉をすぐには呑み込めなかった。 「斉藤さんとお話しました。斉藤さんあなたの手首の傷心配してましたよ?自分に責があるのかと悩みながらも、あなたのこと大好きだって仰ってました」 高橋美里は震える手を口に当てる。 「高橋さんも、そんな傷をこさえるくらい斉藤さんのことが好きなんですよね?普通の人間と幸せにって仰ってましたけど、普通の人間ってなんですか?斉藤さんの 好き は無視ですか?」 高橋美里の腫れた目からまた一筋涙が流れる。 結が声を細めて一瞬酷く冷めた顔になった 「こんな温室みてぇな病気のせいにして、人と一方的に離れようとするなんて、甘えてんじゃねぇよ」 すぐに柔らかい表情に戻ったと思ったやいなや 高橋美里の手首をグイッと掴んだ 小指のない左手でハサミのようにチョキを作る 高橋美里さんと、真っ黒な依存心との縁… 高橋美里さんと、自己否定との縁… チョキ…っと乾いた音が響いた。 途端に、みるみる高橋美里の顔に生気が宿っていく 「あたし…なんでこんなこと悩んで…恥ずかしい」 毎度毎度、縁を切られた人間の変わりようと言えば怖いくらいだった。 「皆様にとんだご迷惑を…」 人が変わったようにペコリと頭を下げて高橋美里は困ったように笑った。 「綺麗に切れたようですね」 結はまたニッコリと笑う 「それでは高橋さん、代金はここのマスターにお支払いください。私はこれで…」 スっと青白い顔に笑顔を貼り付けて結は席を立った 「結さん!本当に…なんとお礼を言ったら良いのか…」 深々と高橋美里は頭を下げる。 「俺もこれで、失礼します。彼氏さんと末永くお幸せに」 翔も笑顔で高橋美里に声をかけ、翔は早足で結を追いかけた。 半地下の、「りていく」から、地上に出る階段を登る結がふらっと足元を崩す (あ…やべ…) 「よっ…っと」 翔がその身体を支える。 「お前能力使った後フラッフラになるんだからすぐ1人で帰ろうとすんなよ」 クスっと結が笑う 「いつも思うんだ、僕のしてることって正しいのかって…何のためにこんなことしてんのかって…」 だって何かを捻じ曲げている気がするんだ 「知らねぇよ…ただ、あの人も…俺もお前に救われた事実は確かだ」 「正しさなんて死ぬ時にならんと分からないよ、未だにあたしにさえわかってないんだからねぇ」 千代さん… 「まぁ、悪くないんじゃないかい?あたしはあんたのしてる事、嫌いじゃないよ…正しさなんて存在自体あやふやさぁ…」 タバコの紫煙をふーっと吐き出した千代が言う 「またのお越しを…2人共ゆっくり休みな」 「ありがとう…千代さん…」 結のうつらうつらした意識が段々と夜に溶けていく。 「翔、家まで送るからまだ寝るなよ」 …… 翔にかかる結の体重が、足取りとともにどんどん重くなっていった。 今日も今日とて1つの縁が切られて消えた
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