水谷君花・胸トキメク入学式だったんだけど

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水谷君花・胸トキメク入学式だったんだけど

 中学の時からずっと憧れていた東山商業学校の入学式が始まった。  ここの制服は、今ではあまり見かけなくなったセーラー服だった。紺の大きな襟には三本の白い線が入っていて、えんじ色のネクタイリボンがすごくかわいい。県内では一番人気の制服。  私は水谷君花という。  きょろきょろと周りの顔を見回したけど、中学からこの高校への知り合いはそれほどいないみたい。友達ができるかが一番不安に思うこと。  そんな面持ちで保護者席を振り返った。きれいにおめかししている母と目が合い、控えめに手を振ってきた。ずっと私のことを見てたみたい。母は、今日のことを誰よりも喜んでくれている。父がいないから一人で二人分、がんばっている様子が見てとれた。  けど、・・・・。  校長先生の挨拶がすごく長い。もう何度となく、あくびが出そうになり、今度も噛み殺していた。目を覚まそうとして周囲の生徒に目を向ける。がっしりした子や優しそうな人、何を見ているのかニヤニヤしている生徒もいる。  その中で私と目があった女子生徒がいた。向こうからにっこり笑ってくれた。すごくかわいい人。私もすぐに笑い返した。  突然、最前列の端に座っていた男子生徒が「はいっ」と元気に返事をし、立ち上がった。やっと校長先生の話が終わったらしい。  次は新入生の挨拶だった。代表の生徒が立ち上がったから、私達一年生も立ち上がる。けっこうイケメン、爽やかないい感じの男の子。 「この晴れた良き日に、東山商業高等学校へ入学することを・・・・」とあいさつ文を読み上げていく。その表情から全然緊張しているように見えない。  皆の前であいさつをするのに、なぜあんなにリラックスしていられたのかが不思議に思えた。もし私だったら入学式の前からがたがた震えて落ち着かなかっただろう。  そんな時、後ろの席でコソコソと話す声がした。 「一宮くん、やっぱ、すごいよね。入試で一番成績が良かった人が挨拶することになっているんだって」 「でも意外。なんで商業高校だったんだろう。絶対に彼なら普通高校を受験すると思ってた」  彼と同じ中学だった生徒たちの噂話だった。 「以上をもちまして、新入生の挨拶とさせていただきます。一年生代表一宮雅紀」と言って深々と頭を下げた。私達も同じように礼をした。  一宮くんっていうんだ。一番最初に覚えた名前。  自分の席に戻ってきた雅紀が私のところからよく見えた。その彼がちらちらと後ろを気にしていた。  そんな私も、後ろを振り向き、あれ?って思った。  うちの母がいない。どうしたんだろう。振り向くたびに手を振ってくれていたのに。  そのときはお手洗いかなとくらいしか思っていなかった。
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