一宮雅紀・第一の謎のはじまり

1/1
前へ
/212ページ
次へ

一宮雅紀・第一の謎のはじまり

 誰にもふと、あれ? って思うこと、あると思うけど、それがオレの場合、高校へ入学したその日に起こった。  その日は四月に入ったばかりなのに、やたら暖かくて新品の制服のジャケットを脱ぎたいって思ったくらいだった。けど、今日くらいはきちんとしているべきかな、ってことで我慢していた。  オレ、一宮雅紀。    県立東山商業高等学校の入学式で、一年生代表として挨拶をすることになってた。そんなだから乱れた格好でいるとやっぱ、まずいよな。  親父は、今日の晴れの舞台を楽しみにしていて、そのためにスーツを新調した。スーツだけがやたらピカピカしてて、年くった七五三みたいで笑えた。それに本人のオレよりもどきどきしたり、わくわくしていて落ち着かせるのに一苦労したってぇの。  親父は、一番ノリで式場の体育館へ入り、保護者席の一番前の端を陣取っていた。端っこならオレの姿をスマホで撮るために、席から立って壁側に行ったり来たりが可能だから。  そんな親バカだったから、式の最中は絶対にスマホを構えて待っていると思ってた。  新入生代表の挨拶のためにオレの名前が呼ばれ、前へ出た。その時、サービス精神旺盛なオレは、カメラ目線を送ってやろうと親父の方を見たんだ。    けど、オレの視線は目標物を確認できずにキョトキョトと彷徨い続けることになった。親父がその席にいなかった。もうすでにどこかの壁側に立っているのかとそっちも目を凝らしてみたが、姿がない。  どうしてだ?   その時のオレの気分を例えて言うならば、バミューダトライアングル航海中の船から、忽然と乗組員たちが消えたって感じかもしれない。その船内には、さっきまで誰かがいた痕跡があった。テーブルに残されたコーヒーからはまだ湯気がたっていたって不思議な話。  ほうら、えっ? って思っただろう。  
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加