桜宴

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桜宴

さあさあ、はじめましょう。 準備なんて、かしこまらずとも。 肝心なのはあなた。 あなたがいればいいのです。 ほらほら、宵の明星が。 宴の見物に現れましたな。 こんどは西の風が。 寄り道をしていきましたな。 いい感じです。 あぐらをかいているあなた。 尻の下があったかいでしょう。 地中に潜んだ虫たちは、 もう夢の中かもしれません。 いい感じです。 ゆるんだ頬に、花弁が挨拶にきましたな。 照れくさいですか。 でももう、みんなあなたを歓迎しております。 手のひらの淡色は今宵の酒。 さらさらとお飲みなさい。 いい感じです。 大の字になっているあなた。 花枝の隙間に群青を帯びた天空が。 しだいにコントラストを強めていきます。 いい感じです。 そっと目を閉じるあなた。 まぶたに浮かぶは出来事の塵。 つぎつぎとカタチを変えて、 名も無いものになってゆきます。 いい感じです。 星を見るあなた。 遠い彼方に逝ってしまった後悔たち。 追いかけたって届きません。 だからこうして、 からだじゅうを伸ばしてみましょうよ。 指先から、 鼻先から、 耳元から、 目に映るものたちが、 きっと今宵の歌となって、 あなたの唇からこぼれるでしょう。 おやおや、西の風。 どうやら花弁に恋をしたようです。
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