風のランチ

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風のランチ

いつも自慢の姉だった。 幼い頃から可愛くて、賢くて、優しかった。 不器用で不細工な妹をかばってくれた。 『おまえはいい子。私は知ってる。内緒で、捨て猫にミルクをあげていたことも、ほころびたクッションを、夜中じゅうに縫い直してくれたこともね』 『ゆっくりでいいの。頭じゃなくて、指を置くのよ。こうしてね』 先生が帰ったあと、私の指を包み込むように手を重ねて鍵盤を押していく。 その細くて白い指先から感じる温もりは、魔法のように私の心をほどいていった。 私たちは仲良しだった。 姉はいつもまぶしく、憧れだった。 ある日、従兄弟が友達を連れてきた。 私はそのお兄さんにひと目で魅了された。 けれど、その人も従兄弟も、見ているのは姉だった。 ずっとずっと、ずっと。 私はいつもどおり、明るくむじゃきに振舞った。 そして庭のテーブルに一人残って、醒めた紅茶をすすっていた。 私は姉が嫌いになった。 理由は自分でもよくわからなかった。 父や母に叱られても、登下校も、ショッピングも、姉と並んで歩くのを拒んだ。 従兄弟やお兄さんが、時々遊びに来ることがあっても、ひとり部屋にいて本を読んでいた。 窓から庭のテーブルを窺いながら。 姉がカレッジへ進学すると、私たちの生活はすれ違うようになった。 姉はピアノのレッスンは辞めてしまったし、夕食も家でとることが少なくなった。 ある晩、姉は私の枕元に来て、「ありがとう」と言った。 しばらくして、姉は誰かと町を出て行った。 そうして私は、従兄弟の友達と結婚して、今もこの家に住んでいる。 庭のテーブルは子供たちが散らかし、父が遺してくれた手製のブランコに乗るのだと言って、夫の手を引いて駆け出していった。 私は一人座って、歯型のついた食べかけのサンドウィッチを口に運ぶ。 風が舞う。静かに木がそよぐ。 姉は今ごろ、どうしているのだろう。 夫は優しく、子供たちは健やかで、申し分ないほど幸せで、 あの日、姉が出ていかなかったら、私はここにいないだろう。 『ありがとう』 あの晩、姉が私に言った言葉の真意はわからない。 私が言うべき言葉なのに。 姉はいつだって私のことを知っていた。 私は姉のことをわかっていたかしら。 姉は。いま、どうしているのだろう。 涙がつたった頬を、そっと風がなでていった。
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