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「はい、啓ちゃん」
朝のキッチンで西澤に差し出された細長い長方形の包みを、啓子はいつものように嬉しさと戸惑いの混じった複雑な心境で見下ろした。
しかも包みは一辺が2センチほどもある大胆すぎる赤白のギンガムチェックの布でくるまれている。こんなグロテスクなナプキンが自分の所持品であったとは啓子にはとても信じられないが、西澤はここのキッチンの抽出しのなかで見つけたと主張している。もっとも、西澤の家にあったとすれば、それはそれでより不気味な話だけれど。
今日はおにぎりか、と思いながら、出勤前のノーネクタイのワイシャツにエプロン姿で手についた米粒を前歯で摘み取っている西澤を上目遣いで見て、ありがとう、と受け取った。
どんぶりにこびりついている残飯から察するに、細かくきざんだしば漬けを混ぜ込んだおにぎりと、おかずは卵焼きに、たぶん昨夜の残りの、タカノツメが多すぎて啓子には少々辛すぎるレンコンのきんぴら。
しば漬けは京都に住む啓子の妹の綾子に頼んで送ってもらっているものだ。啓子がひとり暮らしだった頃は年に数回、綾子が送ってくるだけだったのだが、このところ西澤はこれが残り少なくなると綾子に電話をかけ、しば漬け以外の漬物もとりまぜていろいろと依頼する。代金は啓子がインターネット振込で綾子の口座に入金する。
お店に直接注文すればいいと提案してみたが、綾子には、自分たちの家族の分も一緒に買うからと軽くかわされた。自分の妹と自分が同居している男性とが、京都の漬物について電話で盛りあがっている光景を見るのも、また複雑な心境にさせられるものだ。
「まだ儀式は続いてる?」
啓子の微妙な反応を見て、西澤が訊く。
「まあ、時々は」
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