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 でも、今日のうちに言っておいたほうがいいこともある、と啓子は五日前の西澤を思い出していた。 「わたしにとっても、つーちゃん、謎の生物だよ」 「俺はエイリアンか」 「近いかも。さあ、つーちゃん、シャワー浴びて。明日に備えて、ちゃんと寝る」 「俺、このままでいい」と、ベッドに潜り込もうとする。 「ちょっとー、着替えくらいしようよ。それと、顔洗って、歯磨きして」 「いやだ。めんどくさい。悪酔いした。シャワーは明日にする」 「じゃあ、シャワーは朝でいいから、顔と歯磨き。ちゃんとしないと加齢臭、出るよ。インドでもパキスタンでもない、つーちゃん加齢臭。ちっともおいしそうじゃない加齢臭」 「もう、カレーカレーって、しつこい。早く加齢臭の薬、作れ」と言いつつも、もぞもぞとベッドから起きあがり、バスルームへ向かう。  その背中を目で追いながら、啓子は、よかった、と心の裡につぶやいた。西澤も超人じゃない。いつも駘蕩(たいとう)としているように見えるけれど、振り切ってきたもの、あきらめてきたものもあるはずだ。苦手なものも、避けてきたものもある。だから、それでいい。小さなわがままを並べられて嬉しく感じる自分に、啓子は少し驚いていた。  バスルームから出てきた西澤は、のろのろと着替え、ベッドに入った。 「つーちゃん、まだ間に合うからね」  ブランケットの山に向かって言った。 「何が」 「実家。明日の朝早くなら、まだキャンセルできる」 「え?」と顔を出す。 「ほら、お寿司屋さんがお鮨を握りはじめる前なら大丈夫でしょ。今日は行けなくなったって言えばいい。そんだけ」  西澤は何も言わず、再び毛布をかぶってしまった。
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