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今回の宿泊はビジネスホテルなので、京都のホテルにあったような豪華なダイニングも朝食もない。そのかわり一歩外に出れば、コンビニもファストフード店もコーヒーチェーン店もよりどりみどりだ。
西澤の実家で昼食をともにする予定になっているので、朝はゆっくりめに起き、いつでもチェックアウトできるように準備をしてホテルを出た。
今にも降りだしそうな重たい空を見て、車に常備してある傘を1本、持っていくことにした。
起きた直後から、食欲がない、を連発する西澤に、ジュースかコーヒーだけでもと、散歩をいやがる犬をなだめる気分で連れ出した。
「昼はどうせ鮨だろ。考えただけで胸やけで、なあんも食う気になれないよ」
ホテルから歩いて3分ほどのコーヒーチェーン店のレジ前でも、まだ文句が続いている。
「わたしがサンドイッチにするから、気が向けばそれをつまめばいい」と、西澤にはジュースだけを注文させ、混んだ店内でやっと見つけたカウンターのスツールに腰掛けた。
目の前はガラス張りで、啓子たちの住む地方都市からすると、祭りでもあるのかと思うほどの数の人が行き交っている。
「ちゃんとした職人さんが握った江戸前のお鮨なんでしょ。スーパーのプラスチックの箱に入ったようなんじゃなくて。それを『どうせ』なんて言ったら申しわけないよ」
「でもうちは昔っから何かあるとあそこの鮨だから。客が来るとか親戚が集まるとか、それから、親父の誕生日とか。俺や兄貴の誕生日にはなかったけどな。とにかく鮨が最高のご馳走って家なんだ。だからもう食い飽きたっての。あー、想像したら胃が気持ち悪くなってきた」
「鮨アレルギー反応。実家限定」
「昨日、ワイン飲みすぎたし、いやなこと言われるし」
「いやなことって、どれ」
「あれもこれも。輝との結婚式のことも思い出させるし。啓ちゃんのせいだ」
「それはどうもすいません。でさ、昨日言われたことのなかでいちばんいやだったことって、何」
「えー、それ訊く」と言いながらも、ううむ、と考え込む。「やっぱ、あれかな。20代30代だったら圏外っての」
「そこ?」
「だって、過去の自分の愚かさというか、アホさ加減っていうか、そういうのを見事に指摘されちゃってるじゃないか」
「その過去があるから今がある。つーちゃんが31でわたしが28で出会ってたら、こうなってなかったよ」
「チャラ男は範囲外か」
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