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座敷に通され、畳の上で「田中啓子です」と手をついて挨拶をして顔をあげてみれば、居並ぶ4人の視線が一直線に突き刺さってきているではないか。
小さな床の間を背にした父親。その正面に兄の篤。息子の大介を挟んで兄嫁。
大介だけは好奇心溢れる顔つきだったが、あとの3人は一様に品定めの目をしていた。
どの顔も、じっくり観察しないと微笑んでいるとわからない程度の笑みしか乗せていない。
啓子は心のなかで、おやおや、とため息をつき、1時間1時間、と呪文を唱えた。
奥の座布団を勧められ、西澤と並んで座った。
目の前には、高さも色も経年劣化も微妙に違うふたつの長方形の座卓。
そしてその上には西澤の予想したとおり、鮨桶がひとつずつ、ラップを被ったまま置かれていた。
二方が縁側の明るい座敷だが、テーブルを囲む人々の周囲にだけは、なぜか暗く重い空気が淀んでいるように感じられた。この家で西澤が生まれ育ったとは、奇跡か突然変異かと、啓子は心中驚くばかりだった。
西澤がひとりひとりを紹介するうちに、母親が新しく来たふたりに緑茶を運んできた。ほかの人々の前にはすでに湯呑みが置かれている。
「お土産に京都の宇治茶をいただいたんですけど、それはあとにしましょう。いつものお茶で、ごめんなさい」
昼間からビールが出るような家じゃないとは聞いていた。
「じゃあ、鮨を食いながらいろいろ話そうか」と父親が言い、ラップが外された鮨桶に真先に、いただきます、と手を伸ばしたのは大介だ。
そうか、これは三者面談なんだ、と啓子は胸の内で納得した。なにしろ大介以外は全員が教師か元教師だ。
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