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「でも、やっぱりひとりより、ふたりのほうがいい。楽しいもん」 「そりゃそうだよな。俺さ、この半年が、これまでの人生でいちばん楽しかったかもしれない」 「えー、なにそれ。別れのシーンみたい」 「縁起でもない。逃げたり逃げられたりも、なし。あ、でも、果凛ちゃんは別だ。あの子は、何かあったら面倒見るぞ。あの子のここ」と、顎の下の耳との中間あたりに触れる。「あれ見てたら、健気で、なんか助けてあげたくなる」 「バイオリンたこ、ね」 「ああ、そう言うのか」 「15年の人生のうちの12年間、バイオリン弾いてるんだもんね。あ、わたし、つーちゃんに相談もしないで、果凛に『うちに下宿すればいい』なんて言っちゃってたよね。ごめん。まだひとり暮らしの感覚が抜けきってないんだなあ」 「いや、あの時はあれが最良のアドバイスだったと、俺も思う。ま、本当に下宿させるなんてことになったら、相談してもらわなきゃ困るけど」 「それは当然。あ、じゃあ西澤家では、大介くんは?」 「大介? あっ、忘れてた」と『こもり部屋』へ行き、自分のノートパソコンを持って戻ってきた。「なんかメール来てたんだけど、よく読んでなかった。でもなんであいつ、俺のアドレス知ってんだろ。兄貴に訊いたのかな。ええっと、ああ、あった、これこれ。へえ、啓ちゃんに話、聞きたいんだって」 「え、わたしに? なんの」 「ほら、あいつ、研究職希望だろ。来年卒業だし」 「ふうん。いいけど、役に立たないと思うよ。そっちは院修了やもん」 「あはっ、あいつ」 「なに」 「サイコーのカノジョじゃん、だってさ。あったりまえだっつーの」 「よかった。西澤家にもひとり、味方ができた」  そうだな、としばらく漬物とビールを味わっていたが、啓子がひと缶を空ける頃、西澤が再び立ちあがり、今度は寝室へ入っていった。  なかでクローゼットを開けてごそごそする音が聞こえてくる。眠くなったのか、と啓子も立とうとしたところへ、西澤が何かを体のうしろに隠し持って出てきた。
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