プロローグ

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プロローグ

 あっ、と思った瞬間、支えをなくした身体は空中へと放り出されていた。  声を上げる暇もないほどの速さで、真っ逆さまに落ちていく。  抗えない重力に従い、灰色のアスファルトへ向かって――。  たった一瞬の出来事なのに、心臓が爆発するくらいの恐怖心がオレを支配する。  きっとオレは死ぬ。  このまま硬い地面に叩きつけられ、身体中の骨が折れ、そして……。  その後のグロテスクな想像を拒んだとき、ふっと落下のスピードが緩やかになる。  いや、オレがそう感じているだけで、実際はどうなのかは知らない。  そういえば昔、何かの本で読んだことがある。  一定の高さから落ちるとき、人間は時間の流れをゆっくりに感じるらしい。  そして、高揚感や安心感、中には幸福感を覚えるヤツさえいるとか――  そんなバカなと思っていたけれど、まさか身をもって証明することになるとは。  まるで、眠りながら雲の上に浮いているようだ。  意識が薄れるごとにふわふわとした心地よさが増す。  そのぼんやりとした脳内に思い描いた彼女に呟いた。  花開くようオレに微笑みかける、彼女に。 「大好きです。だから……ごめんなさい」  呟きははっきりとした音にならずに消え、それきりオレの思考は遮断された。
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