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~シュマル王国・農村ヴァリッサ近郊~
~ヴァリッサ洞窟・内部~
僕達は走った。
走った。
走り続けた。
洞窟内の道は空洞ほど広くはないから、巨獣が通れるとは思えない。
頭上には魔力で灯した光源があるので明るさも問題ない。
だが、万が一ということもある。
それに、そんなことを思案する精神的余裕が、僕達には微塵もなかった。
「くそー、ターゲットの巨獣があんなに強いだなんて聞いてないぞ!」
「全くだ! 倒したら報酬は増額だな!」
パスティータとアンバスがそれぞれ文句を述べた。無理もない。あの強敵には、僕だって文句の一つも言いたくなる。
だが本当にそんな暇はないのだ。
「とにかく、早く洞窟を出て体勢を立て直すんだ! 文句はそれから……」
――ギャォォォォォン!!
声を張り上げた途端、巨獣の雄叫びが洞窟内にこだました。しかもいやに近い。
「そんな、ここまで追ってこれるというの!?」
エティの声が上ずっている。先程嫌というほど味わった恐怖が、僕達を一気に支配した。
「うわぁぁぁぁ逃げろぉぉぉぉ!!」
先頭のパスティータが一目散にかけていった。完全にパニックだ。
慌ててアンバスが、シフェールが、エティが後を追いかける。
僕も急いで後を追いかけるが、果たしてパスティータの消えていったあの道は、外に繋がる道だっただろうか?
「えぇい、もう!」
最早マップを確認する間も惜しい。
とにかく僕達は道なりに走って。
分かれ道に行き当たったら記憶を頼りに駆け抜けて。
脇目も振らずに駆け続けた。
そしてどれくらい走っただろうか、巨獣の咆哮がだんだん小さくなり、遂には聞こえなくなった頃。
僕の頭上で灯る魔法の光源は、ぷつっと音を立てて消えてしまったのだ。
「わー、光源がー!!」
「何も見えねぇぞ!」
「マウロ、早くしてくれ!」
仲間の声が暗闇の中で響く。真っ暗で灯りのない中、洞窟の中を走り回るのは無謀に過ぎる。
僕は慌てて声を張り上げた。
「分かってる、分かってるから止まって――!」
と、その瞬間。
視界が光で満たされた。
そして僕達は。
先程まで居た洞窟の中とは似ても似つかない、灯りで満たされ、天井の高い、平坦な冷たい石畳の敷かれた空間にへたり込んでいたのだ。
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