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悪の再臨
古久里藻。
狐耳の女の子はそう名乗った。
「みくず、って読むんだね」彼女が紙に書いてみせた名前を読み上げて、僕は思わず感嘆の声を上げてしまった。「すごい名前だな。てっきり、“も”って読むのかと思っちゃったよ」
「愚か者が。そんな名前があってたまるか」たちまち罵声が飛んできた。「わしがもっと若い頃、つまり転生する前の日本人はじゃな、これくらい普通に読めたぞ。まったく嘆かわしいのう。最近の若い者ときたら、てんで教養がないんじゃから」
僕は思わず吹き出しそうになった。同じティーンエイジャーにしか見えない少女による、年寄りじみた説教。そのギャップがなんとも言えずおかしかった。
「おい、何がおかしい」
「いや失礼。だってさ──ぱっと見俺より年下なのに、なんだかじいさんみたいな口の利き方するんだもん」
「ええい、うるさいうるさい。今のわしは転生して間がなくて、妖力が足りないのじゃ」地団駄を踏んだ。「わしが本調子になったらな、こんな狐と人間のあいの子みたいな、ちんちくりんな姿とはおさらばできるんじゃ。本当のわしはもっとぐらんま、じゃなかった、ぐらたん、でもない。つまりその、ええと」
「グラマー?」
「そうそれ。それなんじゃ」
かつて祖父が書斎として使っていた客間で、僕は藻と相対していた。
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