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ー助けて お姉様、私は此処で殺されてしまう。ー
私の名前はフェリミア・ロナンテス
この国の皇妃となる者。
皇帝も何だか目付きが怖いし、婚約者の皇太子も皇帝そっくりで眼光が鋭くて、話しかけてもそっけなくて。使用人も含めて皆が冷たいの。
宮殿の中で引き篭もって本を読んでいるのだけれど、親しい人は誰も居ないから胸の内にどんどん不安だけが募っていく。
セリーヌ子爵家での日々を思い出しては家族に恥じぬよう、せめて役目を果たさなくてはと、沢山勉強したし、何食わぬ顔で公務もこなしてきた。
だけど皆んな冷たくて、誰も信用出来ないの。
それでも役目を果たして、宮殿で結婚式を大々的に挙げたさい皇妃様と皆に敬われた時になってやっと自信がついてきた。
それから間も無くして、神殿側が聖女召喚を成功させたと言う知らせが届いた。
この国の慣しで、異世界から現れた聖女は皇后となり国を治めるという。
長い間空席だった皇后の席は、聖女出現により埋まることになった。
ある日、聖女と陛下が睦まじく王宮内を歩いている姿が良く目に入った。
陛下はとても嬉しそうで、幸せそうだったけれど、私は別に何とも思わなかった。
だって、私は勉強や仕事をこなす事はしてきたけれど、殆ど交流が無かったのだもの。
でも周りはそう思っていなかった。
気付かない間に、私が陛下と聖女の仲睦まじさに嫉妬していると噂が流れていた。
そんな時に聖女の暗殺未遂事件が起きた。
私は尋問を受けるその時まで、そんな事つゆほども知らなかった。
否定したけど、誰も私の言葉を信じてもらえず、受け入れてはくれなかった。
もう私の気持ちは決め付けられていたから。
数日間ずっと、尋問され続けた。
処刑が決まった時には、もう何もかも、どうでも良くなっていて
処刑場にのぼって久しぶりに太陽の光を目にした。
最後の景色は、群衆が処刑場を取り囲み、非難と好奇の目が私へと一身に降り注いでいる。
セリーヌ子爵家での日々が、遠い夢のようだった。
前を向かされて、群衆の顔がよく見える。その中で私は見つけたのだ。
この場で唯一、非難でも、好奇な視線でもなく、ただ私の姿に悲しんでくれているその姿を。
フードを深く被っているけれど、誰かが分かる。
テリアお姉様だ。
そうだ、私は自分の事ばかりで思い浮かばなかった。
あの後、セリーヌ子爵家はどうなったの?
私が罪人とされているなら、お姉様達が今ただで済んでいるはず無いのだ。
ごめんなさい、お姉様
ごめんなさい。
あんなに、大切にしてくれて
あんなに。可愛がってくれたのに
ちゃんと、立ち回れなくて。
この時になって初めて、罪悪感がわいた。
私が詫びるとしたならば、聖女でも国の人々でも無くて、私の家族にだ。
ずっと水を飲まなかったせいか、声を紡ぐ事をやめていたせいか、上手くは言葉に出せないけれど
心から そう思ったのだ。
「ごめんね、おねぇさま。」
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