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「こっち向いて」
江藤君の手が、私の顔にそっと添えられた。前とは違う、撫でるような優しい手つき。そして、ゆっくりと江藤君の顔が寄せられる。
もしかして、この流れは……。まぶたを閉じて、唇をきゅっと締めて、心の準備を整えた。
ちゅっと、頬にキスされた。
「………!」
びっくりしすぎて声も出せず、無言で後ずさる。
「唇にされると思った?めいな」
突然の名前呼びで追い討ちをかけられ、嬉しいやら恥ずかしいやらで、わなわなと体が震えてきた。
「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
顔を手で押さえながら、へなへなとその場に座り込んでしまった。
ドンドンドン、と扉を叩く音が響いた。
「おーい、大原、江藤ー!最終下校過ぎてるんだぞー」
「まあ、まだ職員室に居座ってた私たちが言えることでもないけれど……」
「一足先に、先生たちからテスト結果聞けましたっ!」
こちらのことなどお構いなしの、扉の向こうから発せられる声に、お互い顔を見合わせる。なんだかおかしくなって、一緒に笑ってしまった。
「じゃあ、行こうか」
そう言われるのと同時に、手を差し出された。
「ありがとう」
江藤君の手に、私の手を重ねて立ち上がる。
そのままの勢いで、江藤君の顔を引き寄せて。
私から、唇を重ねた。
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