六、

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六、

 アカオは肩で息をしながら藁葺き屋根の扉を勢いよく開けた。床の間で翁が横になっており、ゆっくりと上半身を起こした。翁はアカオの姿を見て目を見張った。 「アカオ…、どうした。何故帰ってきた、それにその角…」 「おじいさん、ぼくの角を飲んでください」 「アカオ、お前は命をーーー」 アカオはカラスの言葉を遮って、翁に告げた。 「ぼくの角が薬になるそうです。そして、角を折った鬼は人間になれるんです」 (本当は嘘だけど、薬が買えなかったぼくには、この方法しかない。) アカオは左の角に手を伸ばし、角を勢いよく折った。昨日と同じ衝撃、そして痛みがアカオを襲った。意識が朦朧としながら、アカオは角を薬研で必死で潰した。角は金色に輝く粉へと姿を変えた。すぐ煎じて、翁に飲ませた。  翁は薬を口にした途端、体が軽くなるのを感じた。青白い頬がみるみる血色よく色付く。 「ぼく、角も服も騙し取られてお金にも変えられなくて、人でもなくて、おじいさんに恩返しができなくてごめんなさい」 アカオは翁にそう言って、頭を下げた。徐々に自分の生気が失われていくのを感じる。 「オレはお前が鬼じゃなければ、友達にならなかったカァ」 カラスはアカオの膝に座った。アカオの顔色は徐々に青ざめていく。 「本当に人間になるのか、皮膚の色が青ざめていくぞ」 「角を折ったら鬼は死んじゃうんです。でも、ぼく、幸せでした…」 「アカオはバカだな。お前は人間よりもっと人間らしいカァ」 「そうだ、アカオ目を閉じるな、しっかりしろ」 翁は自分が先ほど口にした角の薬をアカオの口に含ませた。 「ははは、自分の角を飲むなんて変な感じだぁ」 アカオの肌が紫から徐々に赤みを帯び始めた。 「体があったかいやぁ、おじいさん、カラスさん、ぼくと友達になってくれてありがとう」  アカオはゆっくりと目を閉じた。  その後、三日三晩カラスと翁はアカオの看病を行い、四日目の朝にアカオは目を覚ました。 アカオの肌は人の色に染まり、左の角は先が折れていたが髪の毛に隠れ、コブに変化していた。 翁とアカオとカラスはその後、平和に暮らしたそうな。 めでたし、めでたし。
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