5/10
前へ
/122ページ
次へ
 その様子に、仁は肩を竦めて苦笑いを零す。 「……落ち着けって。捕まえるつもりなら、とっくに捕まえてる。おまえをどうこうするつもりはないよ」  ──そんなこと、信じられない。  リンは逃げ道を探すように、すりガラスの窓と入口のドアを、ちらちら見た。  窓は、もしかしたら開かないかもしれない。向かうなら入口のドアがいいだろうか。 「……参ったな。どう説明すりゃいい」  仁はため息をついて、頭をガリガリと掻く。そして、再び真っ直ぐにリンを見た。 「俺はおまえの味方だ。初めて会った時から、そう決めてるんだよ。……おまえの事は、俺が守ってやろうって」  そして少しだけ眉を下げ、ぽつぽつと話をした。 「何度か会ったことがあるんだ、リン。おまえはいつも眠ってた。ベッドの上に、丸くなってな……体が弱いってマリカさんに聞いて、心配してた──このまま目を覚まさなかったら、どうしようって。一度だけ、頭撫でてたらうっすら目を開けたんだがな。覚えてないよな」 「………」  全く、覚えていない。 「でも今日、走ってる姿見て安心したよ。体、良くなったんだな」  その目が本当に優しそうに細められるのを見て、リンは少し警戒を緩めた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加