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仁が目を見開くと、リンの唇がニッと開かれた。
「マリカと入れ替わったんだよ、今日1日! あんたのボスは気付かなかった。愛情がない証拠だ!」
リンが勝ち誇ったように笑う。
「マリカは今頃、遠くに逃げてるよ。ザマーミロだ!」
仁は、そんなリンをじっと見据えた。
「……それで?」
「は?」
「それで、おまえはこれからどうするんだ、リン」
「っ、そんなことっ……」
──これから。
これからなんて、考えていない。
ただ、マリカさえ逃げてくれたら……自分のことなんて、どうにでもなると思っている。
「……あのな」
ため息をついた仁が口を開くのと同時に、再びコンコンとドアを叩く音がする。
そっと顔を覗かせたのは、さっきの店主だった。
「──悪い、仁。ちょっといいか?」
「何だ」
「今、おまえんとこの若い奴が来てるんだが……」
「分かった、今行く」
仁は手のひらで話を止めると、リンに少し待つように言って、部屋を出て行った。
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