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「リン、ちょっと出てくる。すぐ戻るから、ここにいてくれ」
「え」
慌ただしく身支度を整える仁に、リンも立ち上がろうとするが、手で制される。
「いいんだ、おまえはここにいてくれ。ああ、腹が減っただろう? マスター、こいつに何か食わせてやってくれるか?」
戸口を振り返って店主に目配せをすると、またリンに目線を戻す。
「疲れているだろう? メシ食って少し休むと良い。すぐに戻る」
「でも……」
状況が掴めずおろおろするリンの頭にそっと手を触れると、仁はすっと距離を縮めた。
「もう少し、おまえと話がしたい。待っててくれるよな? リン」
「っ……」
いきなり耳元で低く囁かれて、リンの体がぴくっと固まる。
(ち、近い……)
ほんの一瞬、背中がぞくりと震えた気がした。
「じゃあマスター、こいつ頼む」
「ああ。あんまり無茶するなよ、仁」
「分かってるよ」
リンが何も言えず固まっている隙に、仁は風のように出て行ってしまった。
「さて、と。嬢ちゃん、ホットケーキは好きかい?」
「え? あ……はい、好き、です」
「よし。じゃあ、とびきり美味いのを用意するよ、待ってな」
「はい……」
嬢ちゃん発言に突っ込むことも忘れてぼんやりしているリンに1人頷いた店主は、腕まくりをしながら厨房に戻って行った。
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