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「賛美歌、430番。──妹背をちぎるー、家のうちー……」  ステンドグラスに縁取られた、高く弯曲した天井にコーラスが反響する。歌声が幾重にも尾を引いて、頭にわんわんと鳴り響く。 (……もう嫌だ。ここから出たい。まだ終わらないのか)  目尻に涙を浮かべながら、深く息を吐いて、少しでも気を紛らわす。 「──アーメン!」 「ヒッ!!」  我慢も限界に近付いた時、いきなりパイプオルガンが大きな音を出した。  途端に体が強ばり、全身の毛がぶわっと逆立つような嫌悪感に囚われる。  この音は嫌いだ。  特に高温が神経に障る。  一斉に起こった皆の拍手に目を背けると、体が小さく震えた。 (──もう無理だ。我慢できない)  涙の滲む視界が、くらりと揺れた、その時──  チャペル入口の重そうな扉が、ゆっくりと内側から押されるのが見えた。  薄暗かった室内に、太陽の光が、さぁっと差し込んでくる。  光の隙間が広がると共に、息苦しさが嘘のように消えてゆく。 (終わったっ)   俯けていた顔を上げた。  もうこんな男、どうでもいい。  式の間さえ乗り切れたら、十分だ。  こんな結婚式など、どうせ無効になるのだから。
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