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不意に立ち上がった仁を、リンが不思議そうに目で追う。
「え? どこに?」
「少し行ったところに、仕事で使ってる事務所がある。仮眠室があるから、今日はそこで休め。……マスター、パーカーあるか? フード付きのやつ」
「了解」
まだ半分ぼんやりしているリンに、パーカーを羽織らせてフードをすっぽり被せた仁は、よしと言って頷いた。
忌々しいドレスは、あっさり脱ぎ捨てる。
「マスター、世話になったな」
「何、構わんよ。それより何か困ってんなら、いつでも力になるからな」
「分かってる。その時は一番に頼るよ。……ほらリン、立って」
「あ……うん」
促されて、ふらりと立ち上がる。
「嬢ちゃん、またな」
「あ……ホットケーキ、ごちそうさまでした。美味しかった」
マスターのホットケーキは、本当に美味しかった。ひと口食べると空腹を思い出したようで、一気に完食してしまった。
どうもその辺りから記憶が曖昧なので、満腹で眠くなったのだと思う。
こんな状況で呑気に眠ってしまったことに、我ながら恥ずかしくなった。
マスターが、ニコリと笑ってリンを見る。
「また、いつでもおいで」
「はい、ありがとうございます」
照れ隠しでへらりと笑うリンに頷いたマスターは、口元に笑みを浮かべつつ裏口まで2人を見送ると、するりと店の中へ消えて行った。
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