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一歩外に出ると、太陽はとっくに沈んだのか、辺りはすっかり夜の気配に包まれていた。
全身黒ずくめの仁と同化して、じっと見ていないと見失ってしまいそうだ。
「こっちだ」
時々振り返りながらも、足早に先を行く彼の後をついて行く。
この時期特有の露を含んだ夜風が頬を撫でるうちに、リンの頭もすっきりと覚めてきた。
(人が、多い……)
路地を曲がると、いきなり明るい場所に出た。商店街の中でも、この辺りは飲み屋が並んでいるようだ。
仕事帰りだろう人たちが、大勢行き交っている。
飲み屋街など初めて来るリンは、物珍しさにきょろきょろと辺りを見回した。こんな風に、賑やかで華やかな場所など、テレビでしか見たことがない。
ざっくりと胸の開いたドレスを着た女が、道行く人に片っ端から声を掛けている。楽しそうな笑い声が、そこここで聞こえる。
赤ら顔で話す男たちとすれ違いながら、リンは煌びやかなネオンを眩しそうに見上げた。
「……あっ」
顔を上げた拍子に、フードがぱさりと後ろへ落ちる。
(いけない……)
リンはそそくさとフードを被り直す。
そして目線を前に戻した瞬間、少し先の道端でしゃがんで煙草を吸っていた人相の悪い男と、はっきり目が合ってしまった。
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