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「──いたぞ! あそこだっ!」
弾かれたように立ち上がってこちらに向かってくる男に、リンの心臓がばくりと跳ねる。
あの男は、教会にいた。
「リン! こっちだ!」
いち早く異変を察知した仁が、身を翻してリンの腕を引いた。
一瞬で恐怖に包まれたリンは、息をするのも忘れて仁に引かれるまま足を動かす。
もつれるように路地裏に走り込み、躱そうとするが、すぐに気付かれ先回りされてしまう。
「そっちに行ったぞ! 捕まえろ!」
「よしっ、任せろ!」
追い掛けてくる足音は、1つではない。
「──くそっ、どうしてここが分かったんだっ」
舌打ちをする仁はそれでも諦めず、狭い路地をリンの手を引いて駆け抜ける。
「待て! 逃げるな!」
どこまでも追い掛けてくる怒号に、リンは生きた心地がしない。
「リン、ここを上がるぞ!」
狭い路地が八方塞がりになったのか、仁は錆びた螺旋階段に足を掛けた。
「あっ、待って!」
音もなく駆け上がる仁の後を、リンも慌てて追う。
駆け上っている途中で、下から自分たちを見上げる男が、何か喚きながらこちらを指差しているのが見えた。
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