5/9
前へ
/122ページ
次へ
「──いたぞ! あそこだっ!」  弾かれたように立ち上がってこちらに向かってくる男に、リンの心臓がばくりと跳ねる。  あの男は、教会にいた。 「リン! こっちだ!」  いち早く異変を察知した仁が、身を翻してリンの腕を引いた。  一瞬で恐怖に包まれたリンは、息をするのも忘れて仁に引かれるまま足を動かす。  もつれるように路地裏に走り込み、躱そうとするが、すぐに気付かれ先回りされてしまう。 「そっちに行ったぞ! 捕まえろ!」 「よしっ、任せろ!」  追い掛けてくる足音は、1つではない。 「──くそっ、どうしてここが分かったんだっ」  舌打ちをする仁はそれでも諦めず、狭い路地をリンの手を引いて駆け抜ける。 「待て! 逃げるな!」  どこまでも追い掛けてくる怒号に、リンは生きた心地がしない。 「リン、ここを上がるぞ!」  狭い路地が八方塞がりになったのか、仁は錆びた螺旋階段に足を掛けた。 「あっ、待って!」  音もなく駆け上がる仁の後を、リンも慌てて追う。  駆け上っている途中で、下から自分たちを見上げる男が、何か喚きながらこちらを指差しているのが見えた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加