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「っ、待ってっ……もう、走れない」  どれ程走っただろうか。  普段走るということをほとんどしないリンは、体力の限界だった。 「ああ、すまない。……大丈夫か」  膝から崩れるようにしゃがみ込んだリンを覗き込み、男が気遣わしげに声を掛ける。 「もう大丈夫だ、追って来てない。良くがんばったな」 「はぁっ、はぁっ……」  肩で息をするリンの頭に手を伸ばし、絡まるように引っ掛かっていたベールを、男がそっと取り外す。 「あっ」  リンは男の手からそのベールを引ったくると、ぐしゃっと丸めて脇へ捨てた。 (男がベールなんて、きっと腹の中で笑ってるんだろう。……くそっ)  リンが唇を噛んでいると、男が腕を掴んで立ち上がらせる。 「この先に知り合いの店があるから、もう少しだけがんばれ」 「………」  リンは黙って男に従った。  この辺の地理に詳しいというのは、本当のようだ。大通りから外れて細い路地を幾つも曲がり、住宅街を抜けて今は商店街に出ている。  やがて、1軒の店の前に着いた。  飲み屋だろうか、今は消えている看板に、BARの文字が薄く浮かんでいた。
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