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「こっちだ」  当たり前のように裏口に回ると、ノックもせずに入って行く。  厨房のようなところに、ここの店主だろうか、少し年配の男性がパイプ椅子に座って新聞を広げていた。 「悪い、ちょっと邪魔する」 「どうしたんだ、こんな時間に──」  言いかけて顔を上げた男性が、自分たちを見て大きく目を見開く。 「……これはまた、えらいべっぴんさんを連れてるな」 (べっぴんって、僕のことかよ!)  思わず顔をしかめるも、いきなり訪ねているのはこっちだと思い、仕方なく頭を下げる。 「奥の部屋、使っていいか?」 「ああ、構わんよ。──ごゆっくり」  最後の言葉は意味深に言われた気がして、リンはじろりと睨んだが、にっこりと微笑み返されただけだった。  辿り着いた部屋は6畳程の畳敷きで、真ん中に丸い茶卓と、隅に使い込まれた様子の座布団が数枚積み重ねられていた。  従業員の休憩室だろうか、背の高いロッカーが置かれてあり、すりガラスの窓にはカーテンも掛かっていない。  男が座布団の山から適当に数枚取ってリンに座るように促すと、自身もドサッと腰を下ろし、大きな伸びを1つした。 「あの……ここは」  男のように寛ぐ気になれないリンは、身を固くしつつ、小さく声を掛けた。 「言っただろう、知り合いの店だ。ここのマスターとは古い付き合いなんだ、大丈夫だから安心しろ」 「………」
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