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 そう言われても、何が大丈夫なのか分からない。  リンが再び口を開こうとすると、コンコンと控えめなノックが聞こえた。  見ると、さっきの店主がカップを2つ乗せたトレーを持って来ていた。 「ほら、いつものコーヒー。そっちの嬢ちゃんには、ホットミルクな」 「ああ、悪いな、マスター」 (っ、だから、嬢ちゃんじゃないし)  納得していない様子のリンに、男がくっと笑う。 「……そいつ、男だから」 「えっ、嘘、ほんとかよ」  男の言葉に、店主はあからさまに驚く。  まじまじと見られて顔を背けたリンの目に、ドレスの白がチラリと映った。  ベールはさっき捨てたものの、リンは今、白いドレスを身に着けている。シンプルなものとはいえ、そもそも花嫁に扮装しているのだから女に間違われて当然だと思い直す。  女に見えるからこそ、今日の自分の作戦は成功したのだ。 「ふーん。……ま、訳ありな奴は多いからね。ゆっくりしてくといいよ」  店主はそう言うと、深く追求もせずに出て行った。  2人きりの空間に、静寂が訪れる。
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