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 ──……ああ、苦しい。気分が悪い。  息が詰まる程の閉塞感に、目眩がする。 「それでは、コリント書第13章より──愛は寛容であり、愛は親切です。自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばず……全てを信じ、全てを耐え忍び──」 (──って、いつまで耐え忍べばいいんだよっ)  ああ、もう息苦しくて堪らない。  そもそも、この男は今どんな顔をしてこの言葉を聞いているのか。この男は、愛なんて爪の先程も持ち合わせていないのだ。  こんな男── 「っ……」  しゃあしゃあと祭壇に向かって姿勢良く隣に立つ男の顔を覗き見ようと、少し顔を上げかけて酷い目眩に息を呑み、俯いた。 (………) 「──誓いの、キスを」  優しげなふりをしてベールを持ち上げる男の手が、薄く開けた目の端に映った。  自然と唇に力が入る。  ぐっと息を詰めていると、男は軽く触れただけで、あっさりと離れていった。
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