26人が本棚に入れています
本棚に追加
教室に入ってしばらくするとどんどん人が増えてきた。もう少しで彼が来てしまうと考えただけで、緊張で口から心臓が飛び出てしまいそうになる。
早く来て。来ないでほしい。その二つの言葉がぐるぐると頭を巡る。どうしたのって声を掛けてくれる友達もいるけど、それに応えられる余裕なんて今の私には無い。
そして教室に半分くらい人が揃った頃、廊下から優弥らしき声が聞こえてきた。もう少しで優弥が来てしまう。なんて言われるのかな。放課後になる前にフラれてしまったらどうしよう。これが原因で彼と疎遠になるなんてもっと嫌だ。
でも、いっこうに彼は話しかけてこない。ちらりと彼の方を一瞥するけど、普段と変わりない様子。びっくりして呆けていると、優弥と目が合った。なのにいつも通り。普通あんなもの渡されたら、いつも通りじゃいられなくなると思ってたのに。もしかして、私のこと振る予定だからなのかな。もう心は決まってるからってこと? いつも通りの彼が怖い。
「おい、日向」
びくびくしながらいると、不意に声を掛けられた。同じクラスらしい月景愛祐。名前くらいしか覚えてない、何の接点も無い奴だ。そんな奴、余計に答える余裕はない。問答無用で無視する。しかしその行為は、長くは保たなかった。
「おいって言ってるだろ。あのさ、これ何?」
そう言いながら私に何か紙を見せてくる。何はこっちのセリフなのに…――!?
「……えっ!? なんであんたが持ってるの!?」
私に見せられたその何かは、正真正銘私が優弥に渡したはずのラブレターだ。私が思い切り叫んだことで、周りに人が集まってきてしまう。私は月景の腕をつかみ、足早に教室を出た。
最初のコメントを投稿しよう!