隙、すき、好き。

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「………なんじゃこりゃ」 つい声に出してしまうほど 目の前の光景は異様だった。 一人で下駄箱に着いた私の靴箱には靴を取らせまいというように 一枚紙が貼ってあった。 『隙』     …すき。…は? 新手のいじめか嫌がらせか ……いや、………馬鹿か。 ちょっと期待させといて反応を楽しむっていう戦略か? 紙の上の方に『これを持って振り向いて』とある。 なぜそんなことをしなきゃならないんだ。 そう思いながら 邪魔くさい紙を片手で外す。 ………さあどうしようか…。 そのまま固まる。 「ミノリ。」  横から私を呼ぶ声がした。 しかも外からではなく、廊下の方からだ。 顔だけよこに向ける。 「な、なに。」 紙を隠す間がなかった。 どんどん 顔が熱くなっていく。 カザミ ハヤト。 二年間同じクラスでそれなりに話しやすいクラスメートとしてやってきた。  笑ってすますこともできる。 それが今はできない。いつになく カザミの顔が怖いからだ。 感情が読み取れない。 早く何か言ってほしい。 「…それ。…もって振り向いてよ。」 ……へ? 「これ あんた!?」 ちょっと待ってくれ。 なぜ カザミはこんなことをする? 意図は?その顔は?  なんだ?   「びっくりした?」って言って笑ってほしい。 早く。 早く。 ………そうじゃないと…。 胸の鼓動が高まっていく。 「……まぁ、いいから、…それ持って ちゃんとこっち見て。」 「なんで。答えてよ。」 私は紙を突き付ける。 つまりカザミの方を 紙を持って体ごと向いたことになる。 「隙」の文字はこちら側にあるが…。 「すき。」  カザミが唐突に言った。 は。え。………この漢字のこと、だよね。そうだよね? 「……すき、だよ。」  …は?え? まさか。 まさか、まさか…っ 本当に…。 私の混乱を汲み取ったかのようにカザミが言う。 「それ。………俺の カンペ。」  …は。 カザミは私の手から紙を取った。 そして 裏返す。 なっ……………っ! 私の見えていなかった面にはしっかり書いてあった。 『好き』 『風見 快仁』 固まる私に 風見は言う。 「好きです。」
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