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ガチャガチャガチャガチャ…ガチャガチャガチャガチャガチャ
「すみません、危ないので大人しくしててもらえませんか」
私の右手と彼の左手は重くて冷たい金属の手錠で繋がれていた。
「どうして…」
「シロツメクサの意味、本当に知らなかったんですよ。幸運くらいは知ってましたけど」
「………」
「一つ、教えてもらってもいいですか。…母を殺したのはあなたですか?」
どっちだ。正直に答えた方がいいのか、それとも…。
「別に僕はどちらでもいいんですよ。殺してようが、殺してなかろうが。でも一応、気になるじゃないですか」
「…私が殺しました」
「どうして?」
私は左手で服を強く掴んだ。
「あなたの母親は、私の中学の担任だった。私はクラスで酷いイジメを受けてて、何度も助けを求めた。…でも、助けてはくれなかった」
「それで?」
「あの女がうちの病院に来たとき、すぐにわかった。でも、彼女は私に気づかずに、助けてください、助けてくださいって何度も言うの。私のことを、助けてはくれなかったのに」
パトカーが急に止まった。
私が彼の方を向こうとすると、抱きしめられた。
「つらかったでしょう。そんな女でも尽くさなきゃいけないなんて。あなたは悪くない、大丈夫、大丈夫」
「私を恨まないんですか」
「恨みません。むしろ感謝しています。僕はあの女にいじめられていたから。…僕、あれと血は繋がってないんです。父親の連れ子だったので」
殺されはしなさそうだ。抱きしめてくる彼を離そうと押すがびくともしない。
「あの、この手錠、外してもらえませんか?」
「出来ません」
「どうして?恨んでないんですよね」
「だって、外したら僕のものになってくれないでしょ?」
「あなたは何がしたいんですか?」
「四葉のクローバーの花言葉、知ってますか?」
「幸運、とかじゃないんですか」
「幸運と私のものになってって意味があります。あの花冠、四葉のクローバーも入れてたんです。四葉のクローバーだけあげるのもあれだから、シロツメクサと一緒に花冠にしたんですけど」
「えっと…」
「あの時は照れて言えなかった。でも今なら言える。僕のものになってくれませんか?」
「私には、恋人がいます」
「…こんなこと言いたくなかったんですけど、あの女を殺したことを同情する僕と、責める僕、どっちがいいですか?」
彼の笑顔は昔見た顔よりとても冷たく、とても怖かった。
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