真っ白な世界から

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―――彩白の独り言――― あなたはいつも、自分はかっこ悪いって言うけど、私にとってはそんなことないんだよ。 実はね、あなたが初めて会ったって思ってるあの日よりも前に、私はあなたに会ってるの。 あの当時、今もだけど、私のマイブームは色図鑑を見ながらの散策で、公園に赴いては、きらきら光る池を眺めたり、木漏れ日の溢れる木々の中を歩いたりしてた。 水面の色はこの色だ、こっちの葉っぱはこれかな、少し違うな……。 そうやって色図鑑と照らし合わせて、いろんな色に出会うのが、楽しかったんだ。 ある日、つい夢中になりすぎて、帰るのが遅くなっちゃったの。 明日も仕事だからって急いで帰路についたんだけど、公園を出るとき、知らないおじさんに声をかけられて……。 なにを喋っているのか聞き取れなくて聞き返したんだけど、急に持っていた空き缶を投げつけてきたからすごく驚いたんだ。 酔っ払いだったのかな。確認はしてないから定かではないんだけど……。 私は色図鑑を落として、だんだんと近づいてくるその人に、怖くて身動きがとれなくなっちゃった。 視界の端に、乱暴に投げ捨てられた空き缶が見えて、なにされるんだろう、って とにかく頭の中はパニックで、いよいよその人が間近に迫ったとき、私はぎゅって目をつむったの。 そしたら、別の男の人の声がした。 「その娘になんの用か知らないけど、女の子を怖がらせるなよ」 すごく、毅然とした声だった。 舌打ちが聞こえて、おそるおそる目を開けると、おじさんの去って行く後姿が見えて、私はほっと胸をなでおろしたの。 目の前の男の人が、色図鑑を拾って差し出してくれて、私は何度もお礼を言った。 少し眉を下げてはにかんだその人は、私の目にとてもかっこよく映った。 私はね、接客業をしてることもあって、人の顔を覚えるのが得意なんだ。 だからずっと覚えてるんだよ、あなたがかっこよく私を助けてくれたこと。 そのあと一年くらい経った頃かな、私の働いてるお店にあなたがきてくれたとき、まさかまた会えるなんて思ってなかったから、私は神様が与えてくれたチャンスだって思ったの。 いきなり告白して驚かせちゃったよね、あのときはごめんね。 あなたは私の運命の人だって思ったら、いてもたってもいられなかったんだ。 だけど、その直感は、やっぱり当たっていたと思うの。 常識を逸してたかもしれないけど、あのとき行動して、私は本当によかったって思ってるんだ。 いまでもこうしてあなたと一緒にいられて、毎日楽しくて笑って、落ち込んだ日は優しく包んでくれて、隣で手を握ってくれて。 私を大切にしてくれてることが、泣きたいくらい嬉しいから。 だからね、あなたが自分のことをかっこ悪いって言っても、私にとってそれはなにも気になることじゃないよ。 私は誰よりも知ってるから。あなたがかっこいい人だって。 私にとってそれはずっと変わらないから。 これからも、私はあなたが守ってくれる腕の中で、寄り添って生きていくよ。 だけどあなたが歩くのをやめてしまいたいときは、一緒に立ち止まって考えよう。 もしもまた歩き出したくなって、でも勇気がでなかったとしたら、私がその腕を抜け出して、あなたの手を引くね。 たくさんの色のある世界を、一緒に歩いて行こう。
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