真っ白な世界から

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さてと、なにから話そうか。 こんなふうに手紙を書くのは初めてだから、勝手がわからないな。 所々文面がおかしいかもしれないけど、それは許してくれ。 お前も知ってるだろ、俺の学生時代の国語の成績が決してよくなかったこと。 だからまぁ、のんびり気楽に書くわ。 ちょっと長くなるかもしれないけど、どうか気楽に読んでくれ。 お前はまだ知らないだろうけど、俺には付き合って三年になる彼女がいる。 ……あ、いま驚いたろ? 顔見なくても想像できるってすごいな。 だけどお前が驚くのも無理はないな。 俺自身、彼女ができるなんて思ってもいなかったんだから。 ついでに、どんな彼女なんだって仏頂面で聞いてくるお前の顔も想像できるな。 安心してくれ、俺にはもったいないくらいいい娘だよ。ちょっと変わってるけどな。 彼女……彩白(いろは)と初めて会ったときはいろいろと衝撃的だった。 その日はスーツを新調しようと久しぶりに専門店に行ったんだ。 というのもその先日、仕事終わりの飲みの席で同僚が悪酔いしてリバースするという事件があってだな。 ……俺がスーツを新調するに至った経緯は、ここまで言えばわかるだろ? わからなかったらそれでいい。このくだりはとりたてて重要なことではないから。 重要なのは、スーツを新調しに専門店に行ったってこと。 入店すると、幼い顔立ちの、人よりちょっと小柄で、それでいて口調ははきはきしてる女性が対応してくれたんだ。 それが彩白だったわけだが、信じられるか? 初対面でいきなり、私と付き合ってください、って告白してきたんだ。 もちろん、そのときはこの娘頭大丈夫か? って思って断った。 だけど真摯な目で何度も言うんだ。 「私と付き合ってください」 俺はこう返した。 「無理です」 そのときの俺の表情は……お前ならだいたい想像つくだろう? ちょっと面倒くさいときの嫌そうなあの顔だよ。 そのときは露骨にそんな顔をしてたと思うけど、彩白は熱心だった。 コントだったらいいかげん飽きられるくらい、同じやりとりが続いた。 もしかしてそういうキャンペーンでもやってんのかと、勘違いしそうにすらなった。 いや、女性店員が熱心に告白してくるってどんなキャンペーンだよ、ってすぐに思い直したけど。 そうじゃないなら、なにがお前をそうさせてるんだって、俺はだんだんうんざりしてきて、スーツは諦めて帰ろうとした。 そしたら彼女のその小さな体が小動物みたいに俺の前まで駆けてきたかと思うと、大きく腕を広げて通せんぼして、今度は彼女さんいますか? って聞いてきた。 てっきり、まだ私と付き合ってください攻撃が続くと思っていたから、俺は一瞬ぽかんとした。 カノジョさんっていう人物、知り合いにいたっけ? なんていう思考になるくらいぽかんとした。 もう一度、彼女さんいますか? と問いかけられて、ようやく恋人の有無を確認しているのだと理解した。 お前も知ってのとおり、俺はまぁ、馬鹿正直だから、そのままいないって答えてしまって、相手が身を乗り出す理由を作ってしまったんだ。 そしたら彩白は、急に居住まいを正してこう言った。 「自己紹介します。私の名前は葛木彩白(くずき いろは)。今年で25歳になります。 趣味はジグソーパズルと色覚え、特技はジグソーパズルと色当て、あと人の顔を覚えること。 好きな食べ物はチョコパイ、嫌いな食べ物はとくになし。 色図鑑を見ながら散策するのがマイブームです。それから……」 どうしたかって? さすがに止めたよ、だってさ、お店の中だし。他の店員さんもお客さんもみんな俺たちのこと見てたし。 それに意味わからないだろ、告白されて断った相手からいきなり自己紹介されるってなんだよ。 でも、そのとき俺、ちょっと思っちゃったんだよな。 この娘、面白いなって。
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