ジニア

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 今日で何日目だろうか。  僕は何度目かもわからない回想をする。  失ってしまったものを取り戻すことは困難だけれど、心の中にいつまでも留まらせることはできるだろう。  先月までの寒さが嘘のように暑い日々が続き、遠くの空には異様に発達した入道雲が見えた。  僕はここに来るのは初めてだけれど、ここに咲く花の名前だけは絶対に忘れてはならないと強く思った。  僕はここに眠るものに救われた。多くは思い出せないけれど、彼は僕に返しきれないほどの恩をくれたんだ。  幼少期の僕はいじめられっ子で、友達も多くなかった。唯一の友達は、空き地に捨てられていた犬だけだった。僕は犬のことがどうしても放っておけなくて、休みの日にはいつも遊んでいた。絵本を読んだり、ボール遊びをしたり……かけがえのない日々を捨て犬と一緒に遊んだんだ。  ……だけれど、捨て犬との別れは突然だった。    会ってから何日目の事だろうか。今のように発達した入道雲を見ていたのだけは覚えている。  あぁ、そうだ。捨て犬のことを「ジニア」と呼ぶようになったのも、いなくなったあの日からだ。  僕は頑張って探した。当時の僕は幼いから、遠くまで行けなかったけれど、力を振り絞って探した。  結局は見つけることはかなわなかった。  僕は、友達を失うということは、どれだけ悲しい出来事なのかを学んだ。悲しくて、悲しくて、毎晩のように泣いた。今思うと、友達が一切いなかった僕に唯一できた友達だったからこそ、悲しむことができたのだと思う。  だから数年後に野良犬があの空き地で死んでいたと聞いたときは、学校を休んだものだ。  行こうと思ったけれど、足がすくんで、行こうと思えなかった。  怖かったのだと思う。友達が本当に死んでいるところを見てしまうのを。  だから僕は、この空き地にできたアパートに初めて弔いに来たんだ。  きっとここで死んだのだろうな。綺麗な一輪の花が咲いていた。  僕はその花に名前を付けた。あの犬と同じ名前を。  花言葉は「友を想う」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!