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それから約1週間後の4月15日。
この日も隊士全員が部屋に集められていた。
以前の新入隊士の紹介の時と同様に隊士達はまだ詳しい事は何も聞かされていない為、近藤・土方・芹沢の登場を心待ちにしている。
暫くすると襖が開き3人が現れたが──。
3人の表情はどこか綻んでいるように見えた。
「(3人とも何だかとても嬉しそう。
何か良い事があったのかしら)」
葵が思わず3人の表情に釣られて微笑を浮かべると、近藤が快活に言う。
「皆、聞いてくれ。 先程会津公からお達しがあって明日、黒谷に来るようにとの事だ。
恐らく会津公は我々の実力を確かめたいのだろう。そこで僭越ながら上覧試合を行わせていただく事にした。
今からその組み合わせを発表しようと思う」
近藤のその言葉に、瞬時に部屋の中が歓喜に満ち溢れた。
「すっげー! 会津公が俺達の試合をご覧になるのか。 新八、俺選ばれてるかな?」
「さあ、どうかな。平助と違って俺は間違いなく選ばれてるだろうけどなっ!」
藤堂や永倉は嬉しさのあまり思わず立ち上がり、肩を抱き合って興奮している。
皆が浮かれている一方で、葵は密かに顔を曇らせていた。
「(ついに会津公と対面する時が訪れてしまったわ……。私は直接お会いした事はないけれど、父上は幾度となくお会いしているはず。
会津公に私の話をしていたらどうしよう)」
幕府と密接に関わっている人物との対面は、己の身分が明るみになってしまう恐れがある。
ましてや試合の一員に選ばれた場合、余計に容保の視線を浴びることになり、危険は増すだろう。
「(試合……選ばれていませんように)」
その為、葵は藤堂達と真逆の事を願った。
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*黒谷……黒谷にある金戒光明寺の事。
*容保……会津公=松平容保。
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