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そして沈黙の後、男が口を開いた。
「そこまで言うならば疾く行くが良い」
そう言って若い男に手を翳すと彼の周りに円形の光が現れ、彼を包み始める。
「かたじけない。
地上で"その時"を待ちます。
暫しお別れですね」
その言葉を言い終えると同時に光は消え、若い男はその場に倒れた。
「まるで屍のよう。
ああ、人間の為にここまでするなんて……」
女は倒れて動かない若い男を憐れむように見ている。
「彼の望みだ。仕方あるまい。
偶然か否か、たった今 "江戸" という世に彼奴の魂とほぼ同じ在り方の魂を持つ人間を見つけてな」
「あら、仏教とやらの天眼通かしら?
それは面白い事になりそうね。
我々はそなたの行く末を見守りますとも。
いつまでも……」
男が女を宥めるように言うと、女は先程と打って変わって心底楽しげ笑う。
「江戸の世はまだ先のようだがな。
我々は此処から彼の健闘を祈るとしよう。
さあ、彼の身体を安らぎの場へ運ぼう」
男がそう言うと女は頷き、次の瞬間3人の姿はその場から消えた。
──この3人のやり取りは、"人間" の誰もが知り得ないものであった。
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