9. 芹沢一派

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翌日。 朝餉を終えた葵は沖田の案内で壬生浪士組の屯所内を歩いていた。 「ここは前川邸で、向こうにある八木邸には芹沢先生──芹沢鴨の一派が居る。 昨日巡察を共にしていた佐伯又三郎(さえきまたざぶろう)という、半月程前に京で仲間に加わった隊士もその1人なんだ。 芹沢先生は酒癖が悪くて……試衛館一派(俺達)はいつも手を焼いているんだが、信頼する者は多い」 実は発足当初は八木邸だけを使用していた壬生浪士組だが、八木邸は手狭であるため浪士組が東帰前に使用していた前川邸をも屯所にしたのだ。 そのため試衛館一派は八木邸からより広い造りの前川邸へと移動した。 「へぇ、壬生浪士組には派閥があるという事ね。 今すぐ芹沢さん達に挨拶した方が良いかしら? (もしかして京の人に壬生狼と呼ばれるのは芹沢さん達のせい? 近藤さんは乱暴な人では無いもの。 芹沢一派……鬼の様な人間の集いだったりして)」 葵は八木邸を見学しながら、まだ見ぬ芹沢一派を頭の中で想像する。 「いや、今も恐らく酒を煽っているだろうから、やめておいた方がいい。 そのうち嫌でも顔を合わせる事になると思うから、挨拶はその時で良いと思う」 「昼間から酒、ね……分かったわ」 葵は頷いたその時、ふと沖田の腰にある2本の刀に目が行った。 ----- *前川邸…… 家主は前川荘司(まえかわしょうじ)。壬生浪士組に恐れをなして家を明け渡した。
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