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その音を聞いた沖田は顔を赤く染め、己の腹を両手で抑えた。
葵はそんな沖田の様子が面白かったのか、片手で口元を覆いながらクスクスと笑う。
「そういえば、もうそろそろ昼餉の時間かぁ。
私もお腹が空いたわ。
確か今日の昼餉は土方さんと平助君の担当よね。
また漬物が沢山出てくるのかしら」
「いや……今はできるだけ食費を切り詰めているから、漬物は出たとしても少量だ。会津公お預かりになったけれども、禄が与えられていなくて」
「えっ、それじゃあ生活が成り立たないのでは?」
禄が与えられていない、それは即ちタダ働きを意味する。
葵は今後の生活はどうなるのか不安を感じたが、沖田はこの状況を差程気にしていない様で、あっけらかんとしていた。
「まぁ、それでも節約しながら何とか生活しているし、俺は葵さんが隣に居てくれさえすれば、食事が摂れなくても構わないと思っているよ」
その言葉に、今度は葵の顔が真っ赤に染まる。
「〜〜ッ!
(全く、沖田君、貴方って人は……殺し文句を意図も容易く言ってのけるんだから!
やはり天然っぷりは健在なのね)
わ、私も沖田君が居てくれればそれでいいわ。
……さ、昼餉を食べましょっ」
葵は林檎の様に赤いその顔を沖田に見られるのが恥ずかしかった為、彼の背後へと回る。
そして沖田の背中を押しながら門の前を通過し、家屋の中へと入ろうとした。
すると────。
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