9. 芹沢一派

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「偉い器量の良い()を連れてるじゃねぇか、沖田」 門の横で、1人の男(芹沢)が葵と沖田を待ち構えていた。 「(この男、男装を瞬時に見破るなんて……。 (ただ)者ではない)」 芹沢を知らぬ葵は警戒心を剥き出しにするが、それを他所に彼が1歩葵側(こちら)に近づいたその時、強烈な酒の臭いが葵の鼻を掠めた。 「(酒の匂い……まさか……)」 葵はあまりの酒臭さに一瞬顔を歪めたが、沖田は顔色1つ変えずに笑顔でその男と会話を行う。 「前川邸(こちら)にいらしていたのですね芹沢先生。 隊士が増えましたので、屯所を案内していた所です」 「(やはり、この男が芹沢鴨!) これは大変失礼いたしました。 昨日壬生浪士組に加わりました、河合葵と申します。よろしくお願いいたします」 沖田の言葉を受け、葵が自己紹介を行うと芹沢の目の色が変わった。 「 葵……そうか、お前が……。 なぁ沖田、葵。ちと八木邸(こっち)に来いや」 そう言ってクイ、と顎を動かす芹沢。 「(今の反応……芹沢さんは、私を知っている? にしても、私達はこのまま八木邸に着いて行く事になるのかしら)」 葵がチラリと沖田と見ると彼は芹沢に対してニコリと微笑み、首を縦に振った。 そして芹沢に聞こえないよう小さな声で言う。 「恐らく酒をかなり呑んでいる。 機嫌を損ねると厄介だ、着いていこう」 「……分かったわ」 葵は初対面にも(かか)わらず己の事を知っているかの様な反応をした芹沢が気になったが、その事には触れずに沖田と共に八木邸へと向かった。
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