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一方沖田は八木邸を出た後も終始無言で葵の手首を掴み、無我夢中で早歩きをしていた。
「沖田君、手首が痛いわ」
「あ……ごめん」
葵のその一言で我に返った沖田は足を止め、強い力で掴んでいた彼女の手首を解放する。
「助けてくれてありがとう。
けれども、芹沢さんにあんな態度をとって良かったの!? あの人の事だわ、下手すれば怒って沖田君に斬りかかっていたかもしれない。
私が助かっても、沖田君に何かあったら嫌よ」
葵が少しばかり怒気を含んだ声色でそう言うと沖田はハッとし、今になって慌てふためいた。
「そう言われてみれば、そうだな。
でも、嫌がる葵さんを目の当たりにしたあの時はそんな事全然頭に無くて。芹沢先生を葵さんから引き剥がす事しか考えていなかったんだ。
俺だって葵さんに何かあったら嫌だ」
沖田のその言葉は彼が己の安全よりも葵を優先して行動してくれた事を示している為、葵はそれ以上沖田に何も言う事ができなかった。
「もう……次からは、無茶しないで」
葵が沖田の背中を軽く叩くと沖田は
"葵さんに危険が迫っていない限り、無茶はしない"
と言ってニコリと笑った。
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