10. 未知の刀と謎の声

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 夕刻────。 「ごめんね、私の刀選びに付き合わせてしまって」 「問題ないさ。 紹介すると言ったのは俺だし」  沖田と葵は京で最も品揃えの良い刀剣商の元に居た。 「本当に助かったわ。 それにしても、こんなにも刀が多いなんて。 日没までに全て見られるかしら」  葵はその刀の数に圧倒されながら部屋の中をグルリと見渡す。すると、他の刀とは異なり部屋の隅に乱雑に置かれている1本の大脇差()に目が行った。  その大脇差は黒を基軸とし、鞘に美しい金色(こんじき)下緒(*さげお)が備わっているどこか人の目を引くものであった。 「店主さん、あの刀は一体?」 「あの刀はあきまへん」  葵が店主に問うと、店主は即答した。 「あの刀は八咫刀(*やたのかたな)言うてな、いわく付きの物や。 あの美しい見た目から、数多の人間があの刀を欲しいと言うた。 そやけど誰も鞘から刀を抜く事ができひんかった」 「「え……」」  葵と沖田は店主の口から紡がれた信じ難い話に、目を丸くする。 「そ、それなら別の刀にしますね」  不気味に感じた葵はその大脇差から思わず目線を逸らした。 ----- *大脇差…… 刃わたりが約50-60cmまでの長大な脇差。 *下緒……鞘に装着して用いる紐。 *八咫……長い・大きいを意味する。
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