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夕刻────。
「ごめんね、私の刀選びに付き合わせてしまって」
「問題ないさ。
紹介すると言ったのは俺だし」
沖田と葵は京で最も品揃えの良い刀剣商の元に居た。
「本当に助かったわ。
それにしても、こんなにも刀が多いなんて。
日没までに全て見られるかしら」
葵はその刀の数に圧倒されながら部屋の中をグルリと見渡す。すると、他の刀とは異なり部屋の隅に乱雑に置かれている1本の大脇差に目が行った。
その大脇差は黒を基軸とし、鞘に美しい金色の下緒が備わっているどこか人の目を引くものであった。
「店主さん、あの刀は一体?」
「あの刀はあきまへん」
葵が店主に問うと、店主は即答した。
「あの刀は八咫刀言うてな、いわく付きの物や。
あの美しい見た目から、数多の人間があの刀を欲しいと言うた。
そやけど誰も鞘から刀を抜く事ができひんかった」
「「え……」」
葵と沖田は店主の口から紡がれた信じ難い話に、目を丸くする。
「そ、それなら別の刀にしますね」
不気味に感じた葵はその大脇差から思わず目線を逸らした。
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*大脇差…… 刃わたりが約50-60cmまでの長大な脇差。
*下緒……鞘に装着して用いる紐。
*八咫……長い・大きいを意味する。
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