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そんな2人を他所に、葵は手中にある八咫刀をまじまじと見つめていた。
「(なんて軽いのかしら。 大刀と大差無い長さなのに、これ程持ちやすいなんて。
それにこの柄……驚く程、私の手に馴染む)
すみません、先程 "300年の間誰も抜刀できなかった" と仰いましたよね?
この刀は300年前に作られたという事ですか」
葵が刀剣商に問うと、彼は首を横に振った。
「口伝えで300年て聞かされてるだけで、実際は約500年間誰も抜刀した事があらへんかもしれまへん。
先代からは南北朝時代には存在しとったという伝承もあると聞かされてます。
そやけど無銘どすし、本当にその時代のものかどうかまでは……。
兎に角、豪い古い刀で詳しい事は分かりまへん」
いつ・何処で・誰が作ったか判明していない謎の刀。殆どの人間はこの様な気味の悪い刀など、購入する気にならないだろう。
だがしかし八咫刀を抜刀できた葵だけは違った。
"この刀は、己が此処に来るのを待ち侘びていた"
勿論刀に意思がある筈が無いのだが、何故かそのような気がしてならなかった。
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*南北朝時代……1334-1392年の事。
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